シリーズとして考察している。
過去記事も参照されたい
〇クロストレックの販売戦略を考えるーなぜ今ハイブリッドを捨ててターボを投入するのか?
https://community.subaru.jp/announcements/axqcgqlejel9llml
〇レイバック ストロングハイブリッドとは何者か?―VN型の全体像から見る次期型への布石
https://community.subaru.jp/announcements/pxfnbosyhihwk05i
〇レイバック ストロングハイブリッドとは何者か?パート2―公式発表情報から読み解くその正体
https://community.subaru.jp/announcements/fhgpulstjtu3cab7
〇レイバック ストロングハイブリッドとは何者か?パート3-なぜVN型にストロングハイブリッドを投入しなければならなかったのか?
https://community.subaru.jp/announcements/pebpyuqliwq2rhgm
本記事はパート3の補足記事としてまとめたものである。
私自身も勘違いしていたが、CAFE規制とは実は非常に分かりにくいものである。
本質的には、2030年を目安に一定以上の基準にまで燃費をあげましょう、というものであるが、その内情は単に燃費を上げればいいというものではない。
1.加重調和平均
これがそもそものCAFE規制のミソである。
CAFE=Σ販売台数/Σ(販売台数÷燃費)
このような計算式が基本にある。
例えば、以下のような車があるとする。
A車:10km/L
B車:30km/L
ケース①
A車を10,000台販売
B車を1,000台販売
この場合の計算をすると以下のようになる。
CAFE = (10,000 + 1,000) ÷ {(10,000 ÷ 10) + (1,000 ÷ 30)}
= 11,000 ÷ (1,000 + 33.3)
= 11,000 ÷ 1,033.3
≒ 10.6km/L
ケース②
A車を1,000台販売
B車を10,000台販売
この場合の計算をすると以下のようになる。
CAFE = (1,000 + 10,000) ÷ {(1,000 ÷ 10) + (10,000 ÷ 30)}
= 11,000 ÷ (100 + 333.3)
= 11,000 ÷ 433.3
≒ 25.4km/L
すなわち、より多く燃費の良い車を売れば平均燃費の底上げができる。どれだけ燃費がいい車であっても、少数では意味がない。
これは逆に言えば、より多く燃費の良い車を売れば、燃費の悪い車を多少売っても平均燃費に大きな影響を与えないので、その範疇では販売可能になるということである。
ただしこれはトヨタのようなメーカーの話。スバルの場合、元がトヨタのプリウスやアクアのような燃費特化の車を売るメーカーではない。比較的大型のSUVでAWD車が多く、カタログ燃費で20km/Lを超える車が存在しないスバルは、CAFE規制をクリアするには非常に厳しいものになっている。
2.25.4km/Lとは何の数字?
これが最も勘違いされている数字ではないだろうか。
基本的には、販売全数におけるカタログ燃費を上げていきましょうという方向性に違いはない。
25.4km/Lは全車種一律の基準値ではなく、車両重量ごとの基準値を販売台数で加重調和平均した結果として出てくる「平均目標値」 なのである。
これはどういう意味か。
それは、以下の方程式で計算し、車両重量をもとに目標燃費が定められているということである。
燃費基準値(FE:km/L)は、車両重量(M:kg)に応じて以下のとおりとする。
M : 2,759kg未満
FE = -2.47×10^(-6) × M^2 - 8.52×10^(-4) × M + 30.65
M : 2,759kg以上FE = 9.5
※FE は小数点以下第二位を四捨五入
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001337881.pdf
例えば、これを最近発表されたレイバックストロングハイブリッド(S:HEV)に例えてみよう。
https://www.subaru.jp/levorg-layback-wagon/specification/docs/specifications.pdf
Premium S:HEV EXの標準仕様(オプションによる重量増加無し)で車両重量は1700㎏だ。
FE= -2.47×10^(-6) × 1,700^2 - 8.52×10^(-4) × 1,700 + 30.65
= -2.47×10^(-6) × 2,890,000 - 1.4484 + 30.65
= -7.1383 - 1.4484 + 30.65
≒ 22.06km/L
これがレイバックS:HEVの目標燃費となる。
レイバックS:HEVのカタログ燃費はWLTCモードで19.0km/L。すなわち、目標は未達成となる。達成率は86.1%である。
よく言われている目標値25.4km/Lとは、2016年実績の販売車種構成から計算し、2030年の日本で販売されている全自動車の平均燃費をここまで持っていきましょうという平均燃費のことである。
すなわち、各車両で一律にこの数字を達成しなければならないというわけではない。
CAFE規制は企業単位での加重調和平均が求められる。スバルで販売されているHEVで、もっとも燃費の良いレイバックS:HEVでも目標値をクリアできていない。スバルに求められる企業平均燃費をクリアするためには、より燃費を稼げる車種の販売が必要となり、そのために有効となるのがBEVやPHEVである。
スバルでは、アライアンスモデルではあるが、BEVであるソルテラとトレイルシーカーを販売している。
電気自動車では燃費ではないのでカタログ電費をそのまま当てはめることはできない。
そこで換算式が設定されている。
BEVにおける燃費換算の方程式は以下の通り。
FeEV=6,750/EC
EC:電気乗用自動車のWLTCモード交流電力量消費率 Wh/km
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/20250331_zyouyousya.pdf
スバルBEVの代表として、トレイルシーカーの数字を読み解いてみよう。
ET-HSグレード
121Wh/km
*ET-SSのAWD仕様と同じ。18インチホイール車の場合
FeEV=6,750/EC(Wh/km)
≒55.79km/L
これはすなわち、燃費換算でレイバックS:HEVに比べて2.9倍の値に相当する。
つまり、レイバックS:HEV単体では目標燃費を満たしていなくても、トレイルシーカーなどのBEVを組み合わせて企業全体の平均燃費を引き上げれば、CAFE規制を満たすことができる。これがCAFE規制の本質であり、「1台ごとの燃費」ではなく「メーカー全体の販売構成」が重要視される理由である。
3.スバルの戦略を読み解く
そのうえで、スバルの戦略をもう一度見直してみよう。
もともとスバルは、アライアンスモデル4車種、自社開発モデル4車種のBEVの開発を目標としていた。
これはすなわち、BEVの強力な燃費換算値をもって加重調和平均を引き上げることでCAFE規制をクリアする、という計画があったと読み解ける。
なぜなら、もともとのスバルのラインナップからすると明らかにこのBEVの展開車種数は多いからである。
S:HEV登場前のスバルの燃費は、マイルドハイブリッドのe-Boxerで15.8km/L(AWD車)でしかなかった。この場合の車重はグレードにもよるが、AWDで最も軽量なグレードでも1600㎏。目標燃費を計算すると22.96km/Lになるので、68.8%でしかない。
目標燃費 = -2.47×10^(-6) × 1,600^2 - 8.52×10^(-4) × 1,600 + 30.65
≒ 22.96km/L
達成率 = 15.8 ÷ 22.96
≒ 68.8%
なお、この68.8%という数字はクロストレックe-Boxer(AWD)のものだが、フォレスターやインプレッサのe-Boxer(AWD)も燃費面では大きな差がなく、おおむね同水準の達成率にとどまる。すなわちe-Boxer全般が抱えていた燃費面の弱さと言い換えてよいだろう。
この大幅に足りない分の燃費をEVで賄おうとしていたと考えられる。
さてその足りない分を補い平均燃費を底上げするEVであるが、スバルは自社開発EVの後ろ倒しを発表している。アライアンスモデルこそ計画通りに発売できたが、自社開発モデルは市場需要などを見て後ろ倒しにするとのことである。アライアンスモデルは、トヨタとの共同開発者である。各種レビューなどを見ていると車の評価は高く、スバルで生産するようになったトレイルシーカーなども好調のようである。ただ、どこまで行っても共同開発車であり、スバルのように技術的個性の非常に強い中では、自社開発モデルに比べて訴求力が及ばないことが想像できる。また、生産がスバルだとしてもトヨタ系部品も多くあるはずであり、その生産にはトヨタ側の都合が介入することになり、それに左右される場面も出てくるであろう。
だからこそ、アライアンスモデルだけでは燃費の底支えをしきれない可能性があり、ICE/HEV側の燃費の底上げが必要になる。CAFE規制をクリアすることができないかもしれないが、その足りない分が減れば減るほどEVで補わなければならない分が減るからである。
レイバックS:HEVの段階で、達成率は86.1%である。クロストレックe-Boxerに比べて17.3%もの改善は大きいはずである。
4.レイバックS:HEVが求められた理由
ここはパート3の復習になる。
スバルの国内販売車種のうち、フォレスター・インプレッサ系・レヴォーグ系で89%を占めている。特にレヴォーグ系は国内販売台数の17.4%である。
フォレスター系とインプレッサ系(クロストレックのみ)にはストロングハイブリッドであるS:HEVが投入済みだが、レヴォーグ系はターボのみ。
F型にマイナーチェンジしてわずかに燃費は向上しているが、それでも悪いものである。
試算してみよう。
レヴォーグ諸元表
https://www.subaru.jp/levorg/specification/docs/specifications.pdf
最も重いグレードでは、車重は1600㎏。上記計算式で目標燃費を計算すると22.96km/L。
目標燃費 = -2.47×10^(-6) × 1,600^2 - 8.52×10^(-4) × 1,600 + 30.65
≒ 22.96km/L
奇しくもクロストレックe-Boxer車と同じである。その上で、カタログ燃費(WLTC)は、13.8km/Lである。達成率は60.1%でしかない。
達成率 = 13.8 ÷ 22.96
≒ 60.1%
もちろんグレードによっても差はあるが、これは非常に低いものと言わざるを得ない。
これが当初計画通りにEVが8車種発売して大幅に売れていたのであれば問題なかったのかもしれない。しかし、実際はアライアンスモデルだけで戦わなくてはならなくなった。
だからレヴォーグ系の燃費底上げが必要になったのである。
パート1とパート2の復習になるが、私の仮説として以下の通り。
現在のS:HEVは、その展開車種からSUVに最適化されている。遊星歯車による動力分割機構はスポーツツアラーに流用可能でも、その走りのキャラクターが大幅に異なるため、ギア比や制御アルゴリズムが合わない。
自社EV後ろ倒しでアライアンスモデルのみで戦わなくてはならなくなり、ベースラインこそ確保できるかもしれないが、販売台数の大幅増は見込めないと予想される。
だから急いで燃費の足を引っ張っていたレヴォーグ系をハイブリッド化しなくてはならなくなった。
*付随してインプレッサ系でもマイルドハイブリッド廃止というS:HEVへの誘導が考えられる策が打たれている。
しかし、今のシステムではレヴォーグには合わない。だからSUVであったレイバックがハイブリッド化の対象として選ばれた。だが、レイバックはあくまで派生車種であり、形式の本体はレヴォーグ。レイバックにハイブリッドグレードを追加しました、というだけでは販売増は見込めない。レヴォーグのハイブリッド化需要を取り込まなくてはならない。
だから車高を落としてワゴンと呼称し、従来仕様のレイバックをSUVとして分離し、別車種のようなマーケティングを行っている。
SUVと分離して車高を落とすことで、レイバックという名前ながら、偽装レヴォーグS:HEVとして機能させ、レヴォーグの需要を取り込むことで販売増を狙うのではないだろうか。
以上、これが私の仮説である。